2018年4月25日水曜日

「社会的弱者としての女性たちの抱える問題への包括的取り組みを」


アムリタ大学のラオ氏、インドのユネスコ・チェア「男女共同参画および女性の社会進出」の初代ホルダー(議長:責任者)に。

 アムリタ・ヴィシュワピータムのAMMACHI研究所の統括者であるバヴァーニ・ラオ氏が、インドに設置されたユネスコ・チェア「男女共同参画および女性の社会進出」の初代ホルダーに任命されました。ユネスコ・チェア・プログラムは、教育、自然科学、社会科学、文化、コミュニケーション等の分野における知識の共有を目的に、1992年に設立され、世界各地の大学が地球規模のネットワークを形成して活動を進めています。同プログラムでは、参加機関による新たなチェアの設置をサポートしています。インドの参加機関には、そうしたチェアが10あります。ラオ氏は、インディアンエキスプレス誌の編集者アヌラダ・マスカレンハスに対し、自身の果たすべき役割と、インドの女性達に関するバルネラビリティ(脆弱性)・マッピングの新しいプロジェクトについて語りました。

Q:インドのユネスコ・チェアとしてのあなた方の役割はどのようなものですか?

 ユネスコ・チェアには目標が3つあります。一つ目は、調査研究を通して、人々の内的変化を促し、知識を求める気持ちと、人類と環境とのために奉仕したいという強い気持ちを生み出すことです。2つ目は、調査活動を通して社会を変容することです。3つ目は、教育と刊行物とを通して、また情報の提供と、公共政策に対する影響力を持つこととによって、調査研究と、社会にインパクトを与える事業とから得られた成果を共有することです。


Q:女性達のバルネラビリティ(脆弱性)・マッピングとはどのようなプロジェクトですか?

 バルネラビリティ・マッピングとは、防災の文脈において広く用いられている概念です。防災について考えるとき、私達はまず、地震や洪水などの自然現象による災害を思い浮かべます。しかし、災害には人災の面もあります。自然災害が発生すると、社会に内在する脆弱性が増幅します。そうした脆弱性こそが、災害時の被害を最も大きくする要因なのです。しかし、脆弱性が深く根付いているために、徐々に進行する現象であっても、修復不能な被害をもたらすことがあります。気候変動はその最たる例です。さらに、脆弱性には地理的側面ばかりではなく、社会経済的、文化的な側面もあります。それは社会の安全保障に対する脅威や、その他の事柄の中にも現れ得るのです。私達は、女性が抱える社会的脆弱性を包括的に把握し、その解決に取り組みたいと思っています。


Q:プロジェクトはどのような領域で行われているのでしょうか?

 現時点では、6つの分野で進めています。個人と社会における安全性とセキュリティ、健康と衛生、教育と技能の習得、経済的安定と生計手段、気候変動と災害、社会的・文化的脆弱性です。これら各分野における研究は相互に提携して進められ、情報コミュニケーション技術(ICT)、データサイエンス、人工知能(AI)、社会科学等の分野にも及んでいます。現在、ウッタラカンド州、タミル・ナードゥ州、ハリヤーナ州から選定した少数の村を対象に、バルネラビリティ・マッピングの試験的な運用を計画しています。


Q:最近、インドの下院がトリプル・タラーク(夫が妻に離婚を意味するアラビア語「タラーク」を3回唱えることで離婚が許可されるという、イスラム教の慣習)を犯罪とする画期的な法案を可決しましたが、これに関しては地域社会で様々な意見が交錯しています。周縁化された人々の集団や少数派社会における男女の平等を保証するために、どのような活動がなされているのでしょうか?

 社会を変革するためのどような法案に対しても、間接的に有害な結果を生まないようにするために、広範なプログラムによる支援が必要です。社会の変化に向けて柔軟に対応できる整備基盤がないと、急激な変化によって、女性達はむしろこれまで以上に脆弱な立場に追いやられる可能性さえあります。インドを含む複数の国々において、南アジアでの女性の社会進出プログラムが家庭内暴力を生み出したという調査結果があります。これは、女性達が以前よりも自立し、夫に対する服従を拒むようになりつつあるのを見て、社会の男性達が苛立ちを覚えたからかもしれません。ですから、女性の社会進出に向けた政策を実行に移す際には、背景にどのような状況があるのかをまず理解しなければなりません。たとえ善意に基づく取り組みであっても、意図せぬ結果を伴うことがあり得るからです。


Q:性的嫌がらせへの抗議として行われた、「#Me too(私も)」という運動が大きな反響を呼びました。女性達の安全を守るための活動は何か行われているのでしょうか?

 私達は、地域社会の人々の行動に変化をもたらすために、全体的なアプローチを取っています。過去に虐待されてきた子供達は、ほとんどの場合、大人になってからも同様の虐待を受ける傾向にあります。ですから、私達はまず最初に、性的嫌がらせと子供への性的虐待について、母親達に研修を施すことから始めます。自らの子供達にも、そうした危険について教えることができるようになってもらうためです。また、性的嫌がらせや家庭内暴力などの社会問題の緩和に向けて、法的手続きに関する知識を学び、人権への意識を高めるための参加型の研修も行っています。研修に参加した女性達は、コミュニティー内で発生した性的虐待を報告するために、悩み相談電話や当局の相談窓口を利用することも学んでいます。